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日本の木の家に住みたい

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 最近木の香りのする住宅の建前がなくなった。それは柱や梁にヒノキや杉など日本の天然乾燥材を使うことがほとんど無くなったからだ。最近子供たちに尋ねたところ建物にまつわる「縁側」「床柱」「」「」の意味が分からないと言う。日本の伝統的な建築は絶滅の危機にある。

 森林が国土の七割もある日本で自給できる建築用材は木材だけである。日本人は古代から木で家を作ってきた。そして地震や台風の多い国土のなかで高度な木造技術をつくりあげた。これを伝統木構造と呼ぶ。

 伝統木構造とは

①日本の木(無垢材)を使う
②木を組んで作る
③職人さんが手づくりをする
④日本の伝統をふまえている

という四つの条件を満たすものである。いわゆる意匠上の「和風」ではない。

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 「やまのべ」のような古い造りの家はこれに該当するが、現在つくられている住宅の大半はこれらの条件を満たさない。構造材の多くは輸入材であり又集成材や合板の工業製品である。木は組まずに金物で接合する。工場で加工され現場では組み立てるだけになっている。さらに構造的、空間的には西洋建築が元になっている。

 明治時代、西洋建築を取り入れ欧米に負けない都市を作ることを政策としてきた。その過程で日本建築は過去のものであり西洋文明に劣ったものとしてあえて官学は無視してきた。最近になって五重の塔の構造が超高層ビルのヒントになるなど再評価されているが現在までの百年に及ぶ空白は大きい。

 西洋建築では柱は建物の重さを支えるもの、壁は地震や風に耐えるものとして単純に捉えている。それに対して日本建築は重さを柱で受けることには変わらないが地震力や風圧力に対しては柱や梁と言う棒状の材料をつなぎ合わせ籠のような3次元格子を作り、適当に変形しながら力を逃す考え方を持っている。構造的にはどちらの考え方も正しいのだが柔らかい国産の針葉樹を用いた木造の場合日本建築の方が有利になる。
しかし複雑な交点の動きを解明するのに工学的な知見が追い付いつかず現在、法的に伝統木構造を建てることは1,2階建の住宅以外では難しい。

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 環境問題が取りざたされる中で「地産地消」「長寿命でゴミを出さない」「化学物質を含まない自然素材を使う」ことが求められるようになってきた。伝統木構造はこれらをすべて体現している。
 地元の木を使い、地元の職人に支えられ地域の風土に合った丈夫な家をつくことを伝統木構造は目指してきた。それは、まさにローカリズムに立脚している。

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日本は経済力と快適生活を目標にアメリカに追随し、東京に力を集約しグローバリズムを推し進めてきた。しかし美しい風景、安全な水、新鮮な空気、美味しい食べ物は経済力だけでもインターネットでもつくることができない。世界的な食糧危機が危ぶまれるいまグローバリズム一辺倒になることは大きな危険を含んでいる。

 災害も環境問題も自分を取り巻く現実の問題なのだ。倒壊した家から最初に救出してくれるのはSNSでも世界の人ではなく近隣の人なのである。ローカリズムを最低限残すことこそ考えるべきことだと思う。

 日本の木の家に住むことはノスタルジーでも伝統文化の保存でもない。私たちや子供たちが未来に生き残るための手段なのだ、全住宅の1%でもよい、伝統木構造の家が建てられることを勧めたい。そのことが地域の山を、製材所を、職人と地域の風景を守ることにつながると思う。

                         梅沢典雄設計事務所 梅沢典雄
by kamakura-archi | 2016-06-09 20:34 | 所属事務所

神奈川県建築士事務所協会鎌倉支部のブログ


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